今夜も外がうるさい。泊まってるホテルの部屋はバービアが立ち並ぶ道側で、しかも2階だ。ホテルを予約する時に「シーサイド側の部屋の空きがあります」って言葉に騙されて結果がこれだ。
イライラしてもしょうがないのでホテルの入り口前の喫煙所で巻きたてのジョイントに火をつけた。スマホを見ると20時。暗い空を見ながらジョイント先の赤い火の色をジッと見つめながらホテル周りを散歩しに行く事を決めた。少し歩いた先にはバービアがたくさんあって、相変わらずの賑やかさ。端っこを歩きながら煙を吐くために上を見上げると明るい月に負けないくらい明るい光を放つ看板が数えただけで20個以上はあった。
あんな老後も楽しそうだな。パタヤの夜は"生き返ったオヤジ達"が見れるチルい街 pic.twitter.com/axDzplfqgF
— Kei | 小さなニューヨーカー (@smallnycer) November 6, 2022
もういつか忘れたけど、前に知り合いと一緒にパタヤに遊びに来た時にお会計が明らかに違ってモメていたら70代らしき白人のおじさんが「タイでは色々なトラブルがあるけど、これもまた楽しめる男こそタイを本気で楽しめるんだよ」と足りない100バーツを机の上に置いて、出口の方に消えていった。一瞬何が起こったかわからなかったけど、彼を追いかけて呼び止めてお礼を言うと「騙されることはタイではたくさんあるけど、そんなこと関係なしに魅了される力がタイにはあるんだよ。特にパタヤの夜は失ってた男の気持ちがもう一度蘇る最高の場所だから楽しめ少年」と僕に言って、煌びやかなバーが立ち並ぶ道に向かって歩いていった。そんなことを20代前半の僕に言う彼もやっぱり変わったおじさんだったから記憶に残っている。
パタヤでは今でも元気なおじさんたちをたくさん見かける。もう70歳は超えているだろう男性が若いタイ人女性と手を繋いで歩いていたり、一緒にビールを飲んでいたり、ホテルの中に消えて行ったりと色々な場所で歳の差が離れた外国人とタイ人のカップルを見かける。
なんなら今もホテルの近くにあるバーの女性たちは肌を露出させながら道を歩くおじさんたちに向かって「一杯どうですか?」と声をかけている。中には強引に腕を引っ張りにくる強者もいる。もしそのまま店の中に入ってしまうものなら、裸に近い女性が爆音の音楽に合わせて踊り狂い、それを眺めながらビールを飲む男性が見られる異世界の光景を見ることが出来る。初めて見た時は異世界すぎて同じ地球なのか?と衝撃が走ったのを覚えてる。
これだけ聞くと男の楽園のように聞こえるかもしれないけど普段は声もかけられないような男性たちがそんなプロの彼女たちに色恋なんて仕掛けられたら一発で勘違いして、持ってるお金を根こそぎ全部持ってかれる。タイの夜遊びを聞けば大抵の人から女性に騙された話やお金を無駄に使いすぎた話を話し出す。
そんなバカな?と女性は思うかもしれないけど、男とはそんなバカな生き物だし、そんなバカな男たちを今まで何人も僕は見てきた。
最近も知り合いと飲んでる時に目の前のバーで若いタイ人女性の腰に手を回して、ビールを美味しそうに飲む中年の男性がいた。普段はどこにでもいそうな仕事に疲れた中年男性がとうの昔に捨てたと思っていた”男の本能”が戻ってきたかのように人目も気にしないでギラギラした目で彼女を見ていた。年は半分以上は違うだろう女性に中年男性は夢中だったのは他人から見ても明らかだった。そんな彼の目はギラギラしていたけど、タイ人女性は“微笑みの国“と言う言葉がピッタリな歯を見せた素敵な笑顔を見せる反面、どこか目が笑ってなかった。
僕はこの“光の中にある寂しさ“が見える瞬間が好きだ。
この中年男性はタイ語も英語も出来ないみたいで彼女と話すこともないから腕を組みながらバーで流れていたテレビを見ながらたまに彼女の方を見て無言でニコッと笑って、キスをする。その後も特に進展がなかったので「会話も出来ない彼女を彼はホテルに連れていくのだろうか?」とひとり首を傾げな悩んでいたが、どんどんこんなことに時間を使ってるのがバカらしくなってきて、残っていた生ぬるい甘い酒をグイッと飲んでお会計をした。
すると中年男性の彼もお会計をして、財布の中身をジッと見ながらこのタイ人女性を部屋に連れて帰るか悩んでいた風に見えた。最終的にお金が足りなかったのか女性は買わないでお会計をして、机の上に残っているビールをちびちび飲み始めた。さっきまでのギラギラした目はどこに行ったのか疑いたくなるほど寂しい目に変わってしまった男性をよそに次のお客様の席に向かう先ほどの女性はさっきと同じ笑顔で次の男性にニコッと挨拶をしていた。そんな彼女を見て彼も気付いたんだろう。あの数十分は全部“夢“だったって。
男性だけが寂しさを感じているイメージがあるかもしれないけど、女性側にも寂しさを感じることがある。実際にパタヤの夜を散歩すると寂しさを抱える女性とも出会うことも多い。
ゴーゴーバーやバービアで働いてる子の中にはお店の近くに住んでる女性も多い。仕事前の彼女たちはそこらへんにいそうな普通の女性だけど、夜の街に向かうときは化粧をばっちりして、今宵もどこの誰かわからない男性と疑似恋愛をしに夜の蝶になって仕事に向かう。彼女たちはなんでこの仕事をしてるのだろうか?と疑問思って聞き回ったことがあるけど、お金の為に働いている女性は意外と多い。
そんな女性たちも感情がある人間だからこそ、フッとしたときの見せる表情には深い寂しさを感じる。
さっきもホテルまでの帰り道にあるバービア街の付近の建物の2階のベランダからバービア街を覗いてた女性がいた。彼女はあの明るい夜の街を見て、何を思うのだろうか?
価値観が違いすぎるから僕には彼女が正直どんな感情なのかはわからない。だけど、セックスはスポーツだ!的な感覚の人たちには寂しさなんて生まれないけど、セックスは愛情があるからできる行為だと少しでも考える人たちは欲が消えれば、相手との間に生まれた感情が寂しさを生む。特に男は切り替えれない生き物だから女性よりも強い寂しさを背負う可能性は高い。
そんな代償があるとわかっててもパタヤの夜は男たちの“正常“をいとも簡単に“異常“に変えてしまう街だから怖い。
そんなことを考えながらジョインのシケカスをポケット灰皿にしまっていると50代らしき男性と20代らしきタイ人女性が手を繋いで明るい夜の街から僕の前を通過して暗いホテル街の方へ消えていった。
「あーあ、彼もまた使うはずもなかった大金を使って、寝る時は寂しさを噛み締めながら寝るのか」と呆れていたらどこからともなく「騙されることはタイではたくさんあるけど、そんなこと関係なしに魅了される力がタイにはあるんだよ。特にパタヤの夜は失ってた男の気持ちがもう一度蘇る最高の場所だから楽しめ少年」ってあのおじさんの声が聞こえてきた気がした。
もしかしたらあのおじさんの言う通りかもしれないけど、僕はそんな狂った人たちが今後どうなっていくのか横目で見ながら深く吸い込む一服くらいの距離感で楽しむのが好き。あまりに入り込みすぎると誰でも沼にハマってしまう力がパタヤにはあるからね。
いやー、今宵のパタヤの夜もいつもと変わらず明るくて、寂しいね。
※この話は実話をベースに書いたフィクションになります
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